東京高等裁判所 昭和51年(ネ)400号 判決 1978年3月28日
控訴人
國
右代表者法務大臣
瀬戸山三男
右指定代理人
成田信子
外三名
被控訴人
奈良橋重常
右訴訟代理人
大村武雄
寒河江晃
主文
本件控訴を棄却する、
控訴費用は控訴人の負担とする、
事実《省略》
理由
一控訴人國が、郵政省簡易保険局長を所管庁として被控訴人との間に、簡易生命保険法(昭和二四年五月一六日法律六八号、以下「法」という。)並びに簡易生命保険契約約款(同年六月一日郵政省告示五号)に基づき亡東海林由吉(以下「由吉」という)を被保険者とし、保険契約者名義を被控訴人又は妻奈良橋アイ子(以下、「アイ子」という。)又は姉東海林ヤスとし、保険金受取人を被控訴人自身、アイ子は又東海林ヤスとして、原判決添付表(一)に記載のとおり一年余の間に一五口に及ぶ簡易生命保険契約(以下、「本件契約」と総称する。)を締結し、由吉が昭和四〇年八月一二日高血圧症兼心不全により死亡したことにより、被控訴人に対し本件契約に基づく保険金等合計金六六二万〇五二〇円を原判決添付表(二)記載のとおり支払つたことは、当事者間に争いがない。
二本件契約は無効であるとの控訴人の主張について。
1 無効原因その一(保険契約者=被控訴人の詐欺の成否)。<略>
2 無効原因その二(本件契約につき被保険者=由吉の同意の有無。)
(一) <証拠>によれば、本件契約締結の際被保険者たる由吉に直接面接した郵便局外務員は一人もおらず、契約申込書の被保険者欄の氏名捺印の氏名は外務員が記載して捺印を代行し(一部は被控訴人らをして被保険者に代つて拇印をさせ)外務員が直接なすべき被保険者本人との面接観査も省略したまま契約締結に至つたことが認められる。
(二) 前叙のとおり、被控訴人は、由吉を被保険者として日本生命に生命保険契約の申込をし、由吉は昭和三七年二月由吉の自宅に診査医の来訪診査を受けて、既往症等を告知しているのであるから、右契約につき被保険者となることを同意していたことが認められる。
右事実に<証拠>をあわせると、昭和三七年二月一四日頃アイ子の養父亡弥吉の法事に由吉が出席したとき由吉が被控訴人に対し被控訴人が自己、妻又は自己の親族名義で保険契約者となる保険契約の被保険者となることにつき「お前達が掛けられるならいくら掛けてもよい」といい、すくなくとも当分の間に被控訴人が複数口の保険契約を締結することに対し包括的に同意したこと、その後においても、被控訴人が由吉を訪問した際由吉は同様に同意していることが認められる。
そして、国民に簡易に利用できる生命保険を提供することを目的とする簡易生命保険(法一)において、また特に右認定のとおり契約申込書被保険者欄の記名捺印につき被保険者自らすることを求めず代書代印を容認するという取扱いによつて比較的短期間に集中して十数口に分けて締結された本件契約については右認定の程度の被保険者の多少の包括性ある同意(将来締結されるすべての保険について予め同意するといつた同意の空洞化を招くような広い包括的同意ではなく)をもつてその有効要件を充すに足ると解するのを相当とする。
3 さすれば、本件契約を無効であるとして控訴人の主張する無効原因たる事実はいずれもこれを認めることができず、結局本件契約が無効であるということはできないから、これを前提として被控訴人の本件保険金取得を不当利得であるとする控訴人の本件本訴請求は失当として棄却すべきである。<後略>
(吉岡進 園部秀信 前田亦夫)